【生活保護の審査請求と裁判の方法】(全国生活保護裁判連絡会ホームページより転載)
〈 福祉事務所の処分を争う方法は 〉
 生活保護の制度が、「権利として」利用できるためには、生活保護を申請した人や生活保護を受けている人が、福祉事務所など行政の処分に不服があるときに、行政を相手どって争うことができることがまず必要です。
 この争いを、広く「争訟」と呼んでいますが、争訟には、行政の組織内部の機関に不服を申し立てる「行政不服申立て」と、裁判所に判断を求める「司法審査=訴訟」の2つの種類があります。行政不服申し立ての制度は2016年4月からの改正行政不服審査法の施行で大きく変わ

〈 不服申立とは 〉
 行政庁の処分に対して不服がある者は、審査請求を行うことができます(行政不服審査法第2条)。
 審査請求を行う先は、その処分をした行政庁に上級行政庁(生活保護の処分の場合は都道府県知事など)がある場合はその上級行政庁、上級行政庁がない場合はその処分をした処分庁となります(行政不服審査法4条)。
 さらに、審査請求の判断(裁決といいます)についてさらに不服がある場合に「再審査請求」を行うことができます(行政不服審査法6条)(生活保護法66条)。

〈 審査請求はどんなときにできるか 〉
1 保護の申請が認められなかった(却下といいます)場合 ☞ 審査請求ができます。

2 保護の申請をしたが、その後、何の決定もないまま放置されている場合
☞ 保護の申請をしたあと、30日を経過しても福祉事務所などの決定がされないときは、あなたは、保護の申請が却下されたものとみなして(生活保護法24条7項)、審査請求をすることができます。

3 保護の申請の意思があることをはっきりと示しているにもかかわらず、申請書を渡してくれないとか、受け付けてくれない取り扱いがされた場合
☞ 法的にみれば、申請がなされたと考えられるところから、2の場合と同様に、30日を経過しても福祉事務所などの決定がされないときは、あなたは、保護の申請が却下されたものとみなして、審査請求をすることができます。

4 申請に対して、保護の決定はされたが、決定された保護費の額が少ないなど、決定の内容に不満がある場合
☞ 決定された保護費を受け取ったあとでも、審査請求ができます。

5 福祉事務所などがした保護の廃止や停止、保護費の減額決定などを行ったことに不満がある場合
☞ 審査請求ができます。

6 福祉事務所などがした就労指導や指示の内容について不満がある場合
この指導や指示に対して、審査請求ができます。(裁判例では指導指示に対する審査請求が認められたことがありますが、厚生労働省は「指導指示は行政処分ではない」との不当な解釈により審査請求ができないとしています。私たちは、処分性はあり、審査請求は認められるべきだと考えます)

〈 審査請求の方法は 〉
1 代理人を頼むこともできる
 審査請求をすることができる人は、福祉事務所などの処分に不服がある人ですが、自分で不服申立ての仕方がわからないときなどには、代理人に頼んで審査請求をすることもできます。この場合、代理人は、別に弁護士でなくても、生活保護法に詳しい人に依頼してもかまいません。ただし、代理人に頼む場合には、そのことを証明する書類(委任状など)の提出を忘れないようにして下さい。

2 審査請求書の書き方
 審査請求書の記載事項は法律で定められており、これをすべて記載しておけば様式は問いません。なお、正本と副本の二通を提出すること、押印をすることが必要です(行政不服審査法施行令4条)
【参考 行政不服審査法19条】(審査請求書の提出)
  第十九条  審査請求は、他の法律(条例に基づく処分については、条例)に口頭でする
      ことができる旨の定めがある場合を除き、政令で定めるところにより、審査請求
      書を提出してしなければならない。
     2  処分についての審査請求書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
      一  審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
      二  審査請求に係る処分の内容
      三  審査請求に係る処分(当該処分について再調査の請求についての決定を経
       たときは、当該決定)があったことを知った年月日
      四  審査請求の趣旨及び理由
      五  処分庁の教示の有無及びその内容
      六  審査請求の年月日
     3  不作為についての審査請求書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
      一  審査請求人の氏名又は名称及び住所又は居所
      二  当該不作為に係る処分についての申請の内容及び年月日
      三  審査請求の年月日
3 提出の方法
 審査請求の宛先は、前記のとおり都道府県知事又は処分をした市町村長等です。提出は福祉事務所を経由して行うことができますので、提出先がわからなければ福祉事務所に提出してしまうこともできます(行政不服審査法21条)。

4 審査請求の期間
 原則として、不服の対象となる処分があったことを知った日の翌日から起算して三月以内に審査請求をしなければなりません(行政不服審査法18条第1項)。
 また、処分があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、審査請求をすることができないとされました(行政不服審査法18条第2項)。

5 審査請求についてわからないとき
 福祉事務所等に、説明を求めることができます。行政庁が誤ったことを教えたときでも、その説明に従って手続きさえしておけば、それによる不利益がないように処理されることになります。
 また、書面で処分をする場合には、書面の中で審査請求ができること、審査請求先、審査請求の期間等について、書かれているはずですから、よく書面を見ておいて下さい。

6 審理の方法
 審査請求の審理は、職員のうち処分に関与しない者(審理員)が両者の主張を公平に審理することになりました(行政不服審査法9条)。また、証拠書類の閲覧・謄写(行政不服審査法38条)や口頭意見陳述における処分庁への質問(行政不服審査法31条第5項)などが新たに認められましたのでこれを積極的に活用することが大事です。

7 裁決期間
 審査請求に対しては、審査庁は、請求のあった日から50日以内に裁決を行わなければならないことになっています。また、行政不服審査法第四十三条第一項によって新設された第三者機関に諮問をする場合は70日とされています(生活保護法65条1項)。
 審査請求人は、この期間内に裁決がないときは、審査請求が棄却されたものとみなすことができます。
 審査請求をしても、長い期間放置したままになっているときは、この規定により、審査請求が棄却されたものとみなして、次の手続きを進めることが大切です。

8 再審査請求
 都道府県知事の裁決に不服があるときは、厚生労働大臣に再審査請求をすることができます(生活保護法66条)。再審査請求は、審査請求についての裁決があったことを知った日の翌日から起算して、一月以内にしなければなりません(行政不服審査法62条)。
 再審査請求については、基本的に審査請求についての規定が準用されます(行政不服審査法66条)。
 再審査請求については、再審査庁は、70日以内に裁決を行うものとされています(生活保護法66条2項)。

〈 裁判を起こすには 〉
1 取消訴訟、義務づけ訴訟
 裁判(訴訟)を起こす場合、大きくわけて、福祉事務所長などの行政機関の処分などを争う行政事件訴訟と、国や地方自治体を相手に損害の賠償を求める損害賠償請求との2種類があります。ここでは、一般的に行われる行政事件訴訟について解説します。

 生活保護を申請したのに却下された場合などでは、行政事件訴訟のうち、抗告訴訟、とりわけこの処分の取消訴訟を起こさなければなりません。
 もともと、行政事件訴訟には、①抗告訴訟、②当事者訴訟、③民衆訴訟、④機関訴訟の4つがありますが、このうち、生活保護の申請についてこれを争う場合にもっともふさわしい訴訟が、「行政庁の公権力の行使に対する不服の訴訟」である、①「抗告訴訟」と呼ばれる訴訟です。

 抗告訴訟は、行政庁が行った処分(例えば、保護の申請を打ち切った処分とか申請を却下した処分)の取消しを求めるものです(処分取消訴訟 行政事件訴訟法3条2項、8条以下)。

 また、「いくらいくらの保護費を支払え」とか、「なになに処分をせよ」という形の裁判の形もあります(義務付け訴訟 行政事件訴訟法3条6項、37条の2、37条の3)。

 行政処分について不服があり、裁判を起こす場合には、

(処分取消訴訟)
1 被告(処分庁 〇〇福祉事務所長)が、平成〇〇年〇月〇日付でなした原告に対する保護廃止処分を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。

とか、

(義務付け訴訟)
1 被告(行政庁 ○○福祉事務所長)は、平成○○年○月○日付で、原告に対し、△△△△との保護開始(変更)決定をせよ。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。

等といった内容を、「請求の趣旨」に書く必要があります。その場合の相手方は、処分庁そのものではなく、「処分・裁決をした行政庁の所属する・・・公共団体」になりました(行政事件訴訟法11条)。
 そして、その理由を裏づける事実を、「請求の原因」として書くことが必要です。

2 審査請求の前置
 処分取消の裁判を起こす場合に、まず気をつけなければならないのは、裁判の前に審査請求の手続きを行い、裁決を経たあとでなければ、裁判が起こせないということです(生活保護法第69条)。

 問題は、審査請求の手続きをとっても、いつまでも裁決が出されない場合ですが、この場合に審査請求をした人は、先に述べましたとおり、50日以内に裁決がないときは、審査請求が棄却されたものとみなすことができます(生活保護法65条2項)から、この定めにより、処分取消の裁判を起こすことができます。

3 出訴期間
 処分の取消訴訟は、処分又は裁決のあったことを知った日から6ヶ月以内に起こさなければなりませんので、その点十分注意して下さい(行政事件訴訟法14条)。

4 裁判の手続き
 具体的な裁判の手続き、訴状の書き方、裁判のすすめかたについては、かなり複雑ですので、弁護士に依頼されることをお薦めします。なお、弁護士を依頼するには、まず、各地の弁護士会に行かれて、相談することをお薦めします。

 また、各地の弁護士会とは別の組織ですが、日本司法支援センターの各都道府県地方事務所(愛称・法テラス)があり、ここでは、収入の少ない人の訴訟費用を立替えてくれる法律扶助制度がありますので、弁護士費用が用意できない場合には、そこに相談してみて下さい。